宿泊業界では、コロナ禍を経て経営状態が悪化し廃業するホテル・旅館が増えています。そのような環境の中でも生き残り、業績を伸ばしているお宿はどんな取り組みをしているのでしょうか。今回は8つのお宿に絞って、それぞれの戦略や地道な改善、ユニークな取り組みについてご紹介していきます。塔ノ沢 一の湯本館創業は1630年、江戸時代からある老舗旅館です。店舗数を増やすもバブル期に苦しい経営状況に。1978年に15代目社長の小川晴也さんが入社し、1985年ごろから“人時生産性”(1人1時間当たりの粗利益高)の向上と、宿泊料金の低価格化戦略に舵を切り、業績が回復。早期にwebサイトを開設し、オンライン集客やインバウンドの取り込みにも注力していました。2015年には、箱根・大涌谷の噴火警戒レベルが引き上げられ再び経営が苦しい状態になったことをきっかけに、16代目の小川尊也さんが入社、2018年に社長就任。就任後は台風やコロナの被害を受けながらも、マニュアルの作成や経営理念の再設定、DX化、中抜けシフトの廃止、コストの見直しなど“人時生産性”の追求を推し進めることで経営の安定化と事業を拡大。現在は箱根で旅館を9店舗運営していて、2045年に200店舗を目指しています。施設所在地:神奈川県足柄下郡箱根町塔之澤90サイトURL:https://www.ichinoyu.co.jp/honkan/古屋旅館創業1806年。「熱海の旅館で一番働きやすい環境」を目指し、毎年のように館内のリニューアルや業務効率化を行っている旅館です。1990年頃のバブル崩壊で熱海の多くの旅館が潰れるなか存続し、2000年以降も業績は右肩上がり。2015年以降、DX化とスタッフの働き方改善に注力しています。ペーパーレス化やシステム・自動化によるDXで、大幅な業務効率化を実現。働き方について、経営理念の見直しから始まり、寮の新設、初任給の引き上げ、研修マニュアルの動画化、スタッフの心身の健康状態を計測するシステム導入などを行い、離職率ほぼ0を実現しています。さらには、働くスタッフの未来を考えて飲食事業の立ち上げや館内の改装に投資しています。施設所在地:静岡県熱海市東海岸町5−24サイトURL:https://atami-furuya.co.jp/平野屋創業は1932年 。団体客で賑わった時期もありましたが 、団体旅行の減少や増築費で借金が膨らんでいき2009年に民事再生法の手続きをしました。4代目の平野寛幸さんに継がれてからは、人件費や設備費の見直しと、若者向けのプラン・企画で黒字化を実現。利用されていない施設の閉鎖から、マルチタスク制やロボットの導入。レトロを売りにしたプランの販売を行ったり、大浴場ではインバウンド向けにタトゥーを許可しました。稼働率を上げるために、客室をオフィスに改装して貸し出しも行っています。2023年には周辺旅館とともに、現代アートを展示する「ととのう温泉美術館」を企画。施設所在地:愛知県蒲郡市三谷町南山1−21サイトURL:http://www.hotel-hiranoya.co.jp/旅館 大村屋創業は1831年。現社長が2008年に事業継承した時には、借金が6億円。ユニークなプランを次々と打ち出し、情報発信にも力をいれたことで徐々に黒字化していきました。「スリッパ温泉卓球大会」や「嬉野茶時」など、街や周辺の旅館と合同で行う企画も多く、嬉野という“まち”のファンを増やしています。現在は「湯上りを音楽と本で楽しむ宿」というコンセプトを掲げ、3000枚のレコードが聴けるラウンジや音楽フェスの開催、地元の関係者50人が選書した本を楽しめる文庫などがあります。施設所在地:佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙848サイトURL:https://www.oomuraya.co.jp/和多屋別荘創業は1950年。2013年には3.5億もの未払金があり、経営危機に陥っていました。同年に3代目の小原嘉元さんが社長に就任し、改革を実施。従業員との信頼関係の構築から始まり、コストの見直しと削減、敷地内に大工小屋を作り客室のリノベーションなどを行い、2015年には未払金を返済。2016年、特産の嬉野茶のブランド化を目指す「嬉野茶時」を企画。2020年、客室を改装しサテライトオフィス事業を開始。2021年、「Reborn Wataya Project」として、ピエール・エルメや書店、お茶屋さんなどを敷地内に7施設をオープン。2022年、スタートアップや起業家を支援する温泉インキュベーションセンターを開設。施設所在地:佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙738サイトURL:https://wataya.co.jp/四万温泉 鹿覗きの湯 つるや創業は1965年。1995年には3千万円の負債があり、客室に鍵すらかからない状態で倒産寸前。現社長である3代目の関良則さんが旅館を継ぎ、露天風呂から偶然鹿が見えたことをきっかけに「鹿覗きの湯」というコンセプトでリブランディングを開始。広告を展開するとこれまでと違う客層が多く来るようになり、当時はまだ珍しい貸し切り風呂を作ったり、高級旅館へ舵を切ったりすることで黒字化に成功。常に客室のリニューアルを行いつつ、2017年にグランピング施設を開業、2021年にアートホテルを開業しています。施設所在地:群馬県吾妻郡中之条町四万4372−1サイトURL:https://tsuruya.net/御船山楽園ホテル創業は1966年。現社長である小原嘉久さんが、2003年に経営に携わり始め、2007年に社長に就任。当時は赤字経営で数億もの借金がある状態でした。まず組織改革を行い、接客スキルの向上。当時普及しはじめたばかりの宿泊予約サイトを駆使した集客や、“御船山”を使った企画やPR戦略で2年後の2009年には黒字化。その後、2015年に「チームラボ」とのアートイベントを開催。2018年には、大浴場・サウナをリニューアルし新たな集客の柱に。施設所在地:佐賀県武雄市武雄町 武雄 4100サイトURL:https://www.mifuneyama.co.jp/鶴巻温泉 元湯 陣屋1918年に創業。1991年のバブル崩壊後から売り上げが減少し、負債は最大で10億円に膨らみました。2009年、資金のショートまであと半年という状況で宮﨑知子さんが女将に就任。夫と共に陣屋の経営を引き継ぎました。顧客や財務情報の管理、スタッフ間の連絡手段のデジタル化、「社是」の更新、単価の向上などを行い2012年には黒字化。中でも2010年にリリースしたクラウドシステム「陣屋コネクト」は、従業員の勤怠管理から予約・顧客・売上管理まで行うことができるサービスで、経営のスリム化を実現。2012年には、他の旅館業向けに外販する子会社「陣屋コネクト」の立ち上げも行っています。2016年には週休3日制の導入、従業員の給与は10年間で4割増加。AI技術によるお客さんの識別や、IoTによる混雑状況の把握、副業の解禁を実施しています。施設所在地:神奈川県秦野市鶴巻北2丁目8−24サイトURL:https://www.jinya-inn.com/index.php/topic/home_ja文章・編集:田中拓海ホテル求人メディア hoteltreehoteltreeは、ホテルに特化した求人メディアです。離職率30%という業界課題を改善すべく、支配人の想いやホテル業界の取り組みを記載した求人記事を書いています。ミスマッチを減らすことを目的に、誠実なホテルと宿泊業を志す人々、それぞれに真摯に向き合っていきます。