この記事は、 note「小規模ホテルの運営大全」よりオペレーションの設計と改善のパートから引用しています。オペレーションの設計において重要なことは「属人化しない」ということです。どのメンバーが実務を行なっても同じクオリティになることが重要です。既存施設はすでにオペレーションが存在しているため、ここでは「新規施設をゼロから設計する」イメージで説明します。既存の方も、“いったん白紙に戻す” つもりで読むほうが理解が深まります。オペレーションを構造で捉える(3階層モデル)オペレーションは、以下の3つの階層でできています。この構造で捉えると、業務が一気に整理され、ミスや属人化が減ります。① 業務フロー(流れ)「チェックイン → 滞在 → チェックアウト」など、時間の流れに沿った一連の動きを示すものです。▼ 例:ある日の業務フロー15:00〜 チェックイン開始18:00〜 夕食スタート21:00〜 館内巡回22:00 フロントクローズ何が・いつ起きるかを線で見るイメージ。② タスク(作業の粒度)業務フローの中の一つひとつの作業を、具体的な行動レベルに分解したものです。▼ 例:チェックインのタスク予約内容の確認お迎えの声がけ館内説明支払いキーのお渡し客室までのご案内(または口頭説明)「チェックイン対応」という一塊を、いくつかの作業に分けたものがタスク。③ 完了基準(何をもってできたとするか)タスクは、最後に “完了の条件” を決めることで初めて再現性が生まれます。▼ 例:チェックインの完了基準予約情報がPMSに正しく反映されていることを確認する宿帳の記入と支払いが済んでいる館内説明が完了し、お客様が迷わず部屋に向かえるアレルギー・記念日・要望がメモされている連泊ゲストには清掃ルールの説明が済んでいるどこまでできたらOKなのかを全員が共有することが必須。③の完了基準を決めないと、業務内容が抽象的なので人によって実施することが変わってきます。このようなバラつきができてしまうと必ずミスや不平不満が募ります。「あの人は毎回、チェックインの時に抜け漏れがある」となります。それを防ぐためにも、個々の業務は何をもって完了とするのかまで決めましょう。まずは「必要な仕事の洗い出し」からすべての施設に共通して必要なのは、まず ホテル運営で行うべき仕事をすべてリストアップすること。清掃、予約管理、問い合わせ対応、ゴミ捨て、朝食、タオル補充、設備点検、SNS更新…など本当〜〜にいろんな業務があると思いますが、すべて一度外に出します。リストアップしたものを、大きく朝・昼・夜のように実施すべき時間帯を設定します。最後に、「何時〜何時に」「誰が」「どの順番で」行うか を具体化します。それを一日の流れを仮で組み、実際に回しながら微調整します。変更のポイントですが、・その時間にする必要があるのか・その業務をする必要があるのか・どれぐらいの頻度でその業務を行う必要があるのかは考えておくべき内容です。あまり、朝・昼・夜と働く人のどこかの時間帯に業務が集中しても良く無いので、常に全体を見ながら整えていきます。時間帯を決めたら、次はそれぞれの業務をどのようにするのか決めていきます。朝食の準備であれば、何を準備すれば完成なのかを明確にします。役割設計を明確にするオペレーションが崩れる最大の原因は、実は「誰が何を担当するのか」が曖昧なことです。同じ作業でも、誰が“確認する人”で、誰が“実行する人”なのか。たとえば清掃指示書を作るのは前日の夜に誰がするのか、もしくは当日の朝か。そして、それを確認する役割は誰なのか。役割が決まらないと、仕組みが属人的にねじれていきます。オペレーションは「仕事を並べる作業」ではなく、役割で安定させる作業でもあります。ちなみに、チェックリスト・マニュアル・仕様書の違いについて混同している方もいますが、以下のような違いがあります。チェックリスト:抜け漏れを防ぐマニュアル:やり方を統一する仕様書(完了基準):何をもって“完成”とするか決めるこの3つを明確に分けることで、一週間前に入社した新人さんでも、ベテランの方でも、早い段階で同じ結果をつくれます。オペレーションの改善ホテルの開業支援の現場で、私はいつも最初に伝えていることがあります。それは、「ホテルのオペレーションに“完成”はありません」ということ。朝食の配膳方法、客室清掃の手順、備品管理の仕方、チェックイン導線、スタッフ同士の連絡手段など一度決めたものがずっと最適ではないし、環境やチームが変われば、より良い方法は更新され続けます。オペレーションは固定された仕組みではなく、今に合わせて育てていくものです。では、どんな時に見直すべきなのか?現場では次のようなサインが現れた時が「変更のタイミング」です。無駄が多いと感じるとき抜け漏れ・トラブル・クレームが増えたとき人手が足りず、タイミーなどのスポット人材に頼り始めたときレビューが悪化してきたとき売上が伸びて、以前と違う“量”を扱いはじめたとき新しいスタッフが入り、教える負担が大きくなったとき新しいツール / システムを導入したとき共通しているのは、「人が頑張ることで成立させている状態になってしまっている」ということ。現場のスタッフがそれぞれが頑張ってお客様の滞在をより良いものにしようとすることは素晴らしいです。ですが、その個々の頑張りに依存してしまうと不足の事態や離職があった際など今までのように上手くオペレーションが回らなくなってしまいます。このような時、必要なのは努力量を増やすことではなく、方法を変える/構造を変えることで問題を解決すること。オペレーション改善は、「人を責める」のではなく、「仕組みを変える」ことです。同僚のミスが増えた際に、咎めるのではなくどうすれば根本的にそのミスを無くすことができるのかと考えてみる。売上や稼働が伸びてきて現場が悲鳴をあげているではなく、どのような方法であれば各自の負担が少なく運営できるのか考える。何かネガティブな事象があった際に、上記ように視点を切り替えることで今までとは違ったオペレーションを考えられるようになります。老舗旅館で気づいたこと創業350年以上続く老舗旅館で働き始めた時、私は驚きました。それは毎週のようにオペレーションが改善されていたからです。備品の配置を少し変えるドリンクの提案方法を変える清掃の手順や方法を変えるクレームがあった際になぜそれが発生したのか考えてやり方を変える入社するまで「老舗は変化しないのでは?」という勝手な思い込みがありましたが、実際はその逆でした。小さな改善を積み重ね続けてきたから、350年も続いている。そのことに気づいた時、運営に対する視点が大きく変わりました。もし、あなたのホテルのオペレーションが長い期間変わっていないのであれば、チャンスです。今までよりも、より速く、より良くできる伸び代がたくさんある状態だから。改善は大きな変革が必要なわけではありません。先述のように、「こっちの棚に食器を置いた方が動線がよりよくなるのでは?」というような小さなことでも構いません。こうした細かい調整は、スタッフの負担を減らし、チームの空気を整え、結果的にお客様体験の質に影響します。改善とは、“小さな違和感”に気づき、変化を続ける力です。改善をどのような「視点」で行うかオペレーション改善は「お客様のストレスが減る」×「スタッフが楽になる」×「売上/利益にインパクトがある」 この掛け算で考えるのが大事です。 どちらかだけだと、どこかに無理が出て、じわじわ不満が募ります。▶︎「お客様のストレスが減る」だけを考える → スタッフの負担が増えて継続しない▶︎「スタッフが楽になる」だけを考える → サービスが最低限になり、お客様の満足度が下がる▶︎「売上 / 利益にインパクトがない」 → 良い取り組みでも“ただ忙しいだけ”になってしまうだからこそ、改善はどれかではなく、三つを同時に満たす解を探し続けます。正直、全てを満たすのは簡単ではありませんが、その分、実現できた時は運営に良い影響が必ず出ます。(一生懸命考えるしかない!ここは頑張るしかない!!)宿の強さは、日々のこうした小さな積み重ねで形づくられていきます。今、「人が頑張ることで成立させている状態になってしまっていないかな?」と振り返ってみてください。改善をより客観的にするために、「数値」で見られるKPIを設定するのもいい手段です。例えば、朝食の準備時間を測って45分掛かっていたのなら、40分・30分にできないか考えて方法を変えてみる。こうなるとゲーム感覚で実行できるのでおすすめです。このように数字を設定することで各メンバーの業務のスピードや質を測ることができます。測るといっても、出来ないことを責めるためではありません。共通のゴールを作ることで、そこに向かって進んでいくためです。