ホテル業界ではいま、人手不足という言葉が当たり前のように使われています。けれど実際には、ただ「人が足りない」という一言では片付けられない課題が、現場にはいくつもあります。採用が難しい。育成に時間がかかる。必要なのは常勤の人材ではなく、ある期間だけ現場を前に進めてくれる経験者かもしれない。それでも多くの選択肢は、「採用するか、外からアドバイスをもらうか」の二択にとどまりがちです。そんな中で、今回取材したJOINTPOOLは少し違う立ち位置にありました。ホテル業界で経験を積んだフリーランスのホテリエが登録し、課題に応じてプロジェクト単位で現場に入り、改善の実行まで担っていく。コンサルティングでも、人材紹介でもない。その中間のようでいて、実際にはこれまであまりなかった仕組みです。取材を通して印象的だったのは、このサービスが単に「人を紹介する」ためのものではなく、働き手とホテル運営側の双方にある構造的な課題を、同時に見ようとしていることでした。今回はJOINTPOOLがどのような仕組みで成り立っているのか、なぜこのサービスが必要とされているのか、そしてどんなホテルやプロジェクトと相性が良いのかについて、話をCEOの吉成さんに伺いました。【 プロフィール 】吉成太一 / 合同会社ナリーズ / CEO2010年より、スモールラグジュアリーホテルを中心に、ホテル運営と開発に携わる。総支配人として関わったスモールラグジュアリーホテルでは、支配人期間中、40ヶ月連続売上増、離職率0%、国産ホテル初のミシュラン最高評価、国際ホテルアワード9賞(ベストGM賞含む)など、数多くの実績を打ち立てる。その後スタートアップの立ち上げなどを経て、2022年に独立。3年間で50以上のホテルプロジェクトに関わり、フリーランスホテリエのコミュニティ運営や、M&A、宿屋塾でのホテル経営ゼミ(吉成ゼミ)などを展開。2026年に新サービスJOINTPOOLをローンチ助言だけで終わらない。課題発見から実行までを担う“実働型”サービス— まず、JOINTPOOLとはどのようなサービスなのでしょうか?JOINTPOOLは、業界初*となる「フリーランスホテリエ × ホテル」のマッチングサービス。ホテルの課題発見から成果創出までをプロジェクト化し、実績あるホテリエが現場に入り、調査・実行・納品までを一気通貫でやり切る──「実働型コンサルティングサービス」です。そのプールにいるのは、フリーランスのホテリエたち。一つのホテルだけに属するのではなく、複数の現場やプロジェクトに関わりながら仕事をしている人たちです。今の宿泊業界には、「独立したい」「副業やプロジェクトベースでいろいろなホテルに関わりたい」と考える人が、確実に存在しています。自分の腕を試したい。会社員という働き方を卒業して、一定のリスクは取る。その代わり、自由やこれまでとは違う景色を見たい。そんな思いを持つ人は、想像以上に多いのだと思います。たとえば、マーケティングが得意な人や、OTA・サイトコントローラーに特化した人が、役割に応じてホテルを支援する。そうした伴走型の関わり方自体は、これまでもありました。では、JOINTPOOLは何が違うのか。一言で言えば、「実働型であること」です。従来の業務委託では、法律上、現場に深く入ることが難しい場面があります。誰かの指示を受けてシフトに入り、「これをやって、あれをやって」と日常業務を担う形になると、それは業務委託というより労働に近くなってしまう。そうなると雇用の領域に入り、社会保険などを含めた別の整理が必要になります。JOINTPOOLでは、まず運営会社と準委任契約を結びます。その上で、ホテル側の課題をヒアリングし、表面的な現象だけでなく、その背景まで見ていく。たとえば、多くの現場で「人が足りない」と言われますが、それはあくまで表に見えている症状の一つにすぎません。本当は、オペレーションの設計が崩れていたり、役割分担が曖昧だったり、育成や評価の仕組みに問題があったりする。そうした構造的な課題に対して、単純に採用で人数を増やして解決しようとするのではなく、業務改善のプロジェクトとして立ち上げるのがJOINTPOOLの考え方です。そして、そのプロジェクトごとに、JOINTPOOLに登録しているホテリエが現場に入り、改善の実行まで担っていきます。ホテル側と、実際に現場へ入るホテリエとの間には直接的な雇用関係がないため、構造として「ホテルの指揮命令下で働く」という形にはなりません。これまでのコンサルティングは、どうしても「助言はできても、実行までは担えない」ことが多かった。JOINTPOOLは、その一歩先に踏み込み、口を出すだけでなく、実際に変えるところまで伴走する。そこが、既存のサービスとの大きな違いです。— JOINTPOOLは、ホテル経営のコスト面でどのような価値があるのでしょうか?財務諸表のPLには、大きく分けて二種類の費用があります。一つが固定費、もう一つが変動費です。固定費は、売上があってもなくても、基本的に一定でかかり続けるものです。家賃のようなものを思い浮かべるとわかりやすいと思います。同じ広さ、同じ機能の物件なら、普通は1円でも安い家賃を探しますよね。人材に関しても、経営の視点で見れば、それに近い考え方が起きます。ホテル経営では、株主や不動産オーナーの立場からすると、教科書的には固定費はできるだけ小さく抑えたい。だからこそ、現場でどれだけ「人を増やしたい」と思っても、固定費を上げる判断は簡単ではありません。では、それが変動費ならどうか。売上が高いときには必要な人材がいて、売上が低いときにはコストを抑えられる。必要なタイミングだけ優秀な人が入り、役割を終えたら離れる。そういう形で課題を解決できるなら、経営の選択肢は大きく広がります。JOINTPOOLを利用する目的の一つは、まさにそこにあります。本来、固定費として抱えがちな課題解決を、変動費として扱えるようにすること。たとえば極論を言えば、GMが常駐していなくても、AIシステムやオンラインでの伴走を組み合わせながら、「人事・財務・マーケティング」を見て、予算達成できていればいい、という考え方もできるわけです。何人で運営するのか、どんな座組にするのかは絶対条件ではない。売上、EBITDA、ROIといった数字がきちんと成立し、投資が回っていればいい。その前提で運営体制を考えたときに、「採用しない」という選択肢を持てることは、経営者にとってかなり大きいと思います。採用が難しいのであれば、無理に採用しなくてもいい。その選択肢を持てること自体が、JOINTPOOLの価値の一つです。ホテリエの収入と働き方に、新しい可能性を— JOINTPOOLというサービスを作った背景を教えてください大きかったのは、自分自身が圧倒的な人手不足を、現場で体験してきたことです。もともとGMもやっていましたし、下積みの時代も長かったので、ホテル運営の各セクションを一通り経験してきました。その後は教育や指導をする側にも回ったので、表に見えることだけでなく、裏側も含めて、ホテル運営の全体をかなり見てきたという自負があります。その中で、ずっと思っていたことが二つありました。一つは、「ホテリエがもっとお金を稼げるようになったほうがいい」ということ。もう一つは、「もっといろいろな挑戦ができる選択肢があったほうがいい」ということです。現場スタッフで年収1,000万円に届く人は、ほとんどいません。もちろん、経営者や開発側、不動産側に立てばそういう人はいます。でも、純粋なホテリエとしてその水準に届く人はかなり少ない。それは個人の能力の問題というより、会社員という仕組みの中では、構造的に難しい部分があると感じていました。一般に独立は、ハイリスク・ハイリターンだと言われます。仕事があるかどうかわからない。それがリスク。でも、うまくいけば会社員では見えないリターンがある。JOINTPOOLでは、そのハイリスクの部分をできるだけ減らしたいと思いました。実際、今参加している人の中には、もともとホテル運営会社で月収30万円ほどだった人もいます。JOINTPOOLであれば、1プロジェクト15万〜20万円程度の仕事を複数担当することで、月100万円前後の景色が見えてくることもある。もちろん簡単なことではありませんが、少なくとも「今までの働き方しかない」という状態ではなくなる。しかも、プロフェッショナルに依頼する以上、こちらが細かく指示を出すことはありません。「このプロジェクトを、この状態まで、この日までに仕上げてください」とゴールを共有するだけ。過程は本人に委ねられる。だから、複数の仕事を並行して進めることもできるわけです。一方で、経営者側もコロナ禍を経て、採用に対して以前ほど積極的になれなくなっています。有事の際には、お客さまがいないのにスタッフだけが何十人もいて、仕事がないという状況が起こりうる。そうした記憶がまだ残っているからこそ、自社だけで抱え込むより、必要なタイミングで必要な知見を持つ人を呼べるサービスがあればいい。全国を旅するようにプロジェクトを横断し、いろいろな土地で、いろいろな人と出会いながら働く。そういう刺激を求めるホテリエが、もう少しいてもいいと思うんです。でも、そうした人たちのためのプラットフォームは、これまでほとんどなかった。だから作ろうと思った。JOINTPOOLは、そういう流れの中で生まれたサービスです。重視するのは、実績と“自分の武器”があること— そうなると、JOINTPOOLは所属する人材が要になりそうです。どのような点を見ているのでしょうか?まず一つは、実績です。基本的には、二つ以上のホテルでGMを経験している人でないと入れません。やはり、どこかでしっかり実績をつくってきた人でないと、クライアントとの信頼関係を築くのは簡単ではない。だからこそ、何をやってきたかはかなり大切にしています。一方で、「前の会社が嫌だから辞めたい」「フリーランスになりたい」といった理由で相談をもらうこともありますが、そういうケースは基本的にお断りしています。逃げの姿勢でフリーランスになる人とは、JOINTPOOLの考え方は合わないと思っています。もちろん例外はあります。たとえば、一つの職能が飛び抜けている人。ある分野で強い実績があったり、SNSなどで広く知られていて、経験も十分にある人であれば、GM経験が複数なくても活躍できる余地はあります。ただ、共通しているのは、自分の武器が明確であることです。— 現在、JOINTPOOLには何名ほどの人材が登録しているのでしょうか?今は28名ほどです。JOINTPOOLでは、13のビジネスドメインに分けて、それぞれの専門性を見ています。その上で、「あなたは何オタクですか?」という聞き方をしています。全員がGM型である必要はありません。システムに詳しい人もいれば、人事・財務に強い人もいる。マーケティングに特化した人もいます。クライアント側の課題によって、誰をアサインするかを決めていく形です。教育、シェフ、アセットマネジメントなど、13のドメインごとに、少なくとも一人はトップランナーがいる状態をつくっています。 単に「人を集める」のではなく、ホテルの経営課題に対して、必要な専門性を組み合わせられる状態をつくっている。それが、このサービスの土台だと思います。— JOINTPOOLを作る上で、何が一番大変でしたか?一番大きかったのは、やはりコンプライアンスを守りながら、現場の課題解決ができる仕組みをつくることです。今は世の中でも、偽装請負の問題がたびたび話題になります。そうしたリスクを避けながら、それでもクライアントの現実的な課題に応えられる座組をどう作るか。ここは相当考えた部分です。加えて、13のビジネスドメインを設計していく過程も簡単ではありませんでした。多くのホテル関係者やフリーランスの方と会いながら、Webには載っていない情報を会話の中から拾っていった。コンサルタント的な立場の人たちが、どんな入口で仕事を受けて、どんな課題を解決して生計を立てているのか。そうした情報は意外なほどネット上にはありません。Web上にない情報は、当然AIも拾えません。だからこそ、そうした“アンプラグド”な領域に価値がある。一つひとつ言語化し、仕組みに落としていくのがとても大変でした。世の中にはこれまでも「伴走型」のサービスはありました。ただ、その多くはあくまでコンサルティングが主体で、OTAや販売プランを見てアドバイスするというものが中心でした。もちろんそれにも価値はありますが、その一部は今後AIに代替されていく可能性が高い。そう考えたときに、事業者側が本当にありがたいのは、面倒な人間関係も含めて巻き取り、現場で前に進めてくれる存在なのではないか。JOINTPOOLは、その役割を担いたいと考えています。— どのような会社とJOINTPOOLは相性が良さそうでしょうか?これまでさまざまな会社と関わってきた中で、規模の大小はそこまで関係ありませんでした。日本最大級の客室数を持つホテルから、地方の民宿まで対応できる。サイズよりも、「どんな課題を持っているか」のほうが重要です。その中でも特に相性が良いのは、新規立ち上げや開発プロジェクトのような、期間限定かつ専門性の高い案件です。実際、JOINTPOOLの売上の半分は開発領域から生まれています。ホテルは、開発段階では特別な知見を持つ人材が必要になりますが、開業して運営が安定してくると、その役割は徐々に変わっていきます。開発メンバーがずっと必要なわけではなく、あるタイミングで運営チームへバトンタッチされる。だからこそ、期間限定のプロジェクトとJOINTPOOLは相性が良い。また、ラグジュアリーホテルやハイエンドホテルの立ち上げもそうです。結果を出せる実力がありながら、特定の企業に雇用されていない人材は非常に希少です。そのため、需要が大きい領域でもあります。これまでにも、リゾートホテルの運営改善、ラグジュアリーホテルの新規開業、老舗旅館の改修プロジェクトなど、特殊な知見が必要な案件に多く関わってきました。一時的だが難易度が高い仕事。そうした領域でこそ、JOINTPOOLの強みはより発揮されます。Webサイト:https://jointpool.jp/問い合わせ先:contact@jointpool.jp*業界初:自社調べ(2026年4月時点) ホテル業界に特化した「フリーランスホテリエとのマッチングプラットフォーム」として。弁護士監修に基づき、従来の「人材紹介」や「労働者派遣」とは一線を画す、成果物納品を目的とした準委任・再委託型モデル(フリーランス新法準拠)を採用。本サービスにおける独自のビジネスモデルは、特許出願中(特願2026-20282)です。取材を終えて私自身、ホテル業界の中で一社だけではなく複数の会社に関わりながら仕事をしてきました。だからこそ、取材の中で語られた「ホテリエの給与の課題」や、「独立した人のハイリスク・ハイリターン」という話は、感覚としてよく理解できます。フリーランスという働き方には自由があります。でも同時に、結果だけが求められる世界でもあります。そして、「仕事をすること」と「営業をすること」は、似ているようでまったく別の能力です。能力は高いのに営業が得意ではない人もいる。逆に、営業力はあっても、プロジェクトを回すことで手一杯になり、新しい案件を取りにいく余白がない人もいます。その意味で、JOINTPOOLは、これまで培ってきた知見を100%プロジェクトの実行に向けやすい仕組みなのだと感じました。また、ホテルの運営側に立って考えてみても、期間限定のプロジェクトのために正社員を雇うのは簡単なことではありません。だからといって、社内だけで抱え込めば、改善が進まないこともある。そんなときに、実務面まで含めてプロフェッショナルの力を借りられるのは、非常に理にかなっています。働く側と、運営する側。その両方にある課題を見た上で、それぞれに別の解決策を提示するのではなく、一つの仕組みとしてつなぎ直している。JOINTPOOLは、そんなサービスなのだと思いました。文章・編集:田中幹人写真:ご提供いただきました