西伊豆の青い海と山々に囲まれ、のんびりとした自由な時間を楽しめるホテルとして2021年の7月にグランドオープンした『il azzurri(イル・アズーリ)』。団体向けだった旅館をリゾートホテルに改装し、駿河湾に面したオーシャンビューを活かす為に全客室露天風呂の設置やフリーフローの導入など、効果的な施策を次々に実行することで人気を博しています。総支配人の山下圭三(やました けいぞう)さんは、ホテルのリアルスクールとしてスタッフに学びの環境を与える運営にも挑戦しています。ホテル再生の取り組みや、リアルスクールにかける思いについてお伺いしました。フリーフローで楽しめる「旅慣れた大人のリゾート」──ホテルのコンセプトや特徴をお伺いしてもいいですか?もともとここはアクーユ三四郎という団体向けの旅館でした。一度経営破綻し、その後は企業の保養所のような形で利用されていました。我々の会社が2020年12月に取得して、従業員はそのまま雇用しつつ客室・レストランを改装。2021年の7月16日に『il azzurri』としてリブランドオープンしています。景色がイタリアの景勝地であるカプリ島にそっくりなので、「旅慣れた大人のリゾート」というコンセプトでリブランドしています。また、オールインクルーシブで個人向けの宿にしながらも、料理は手の込んだイタリアンを提供しています。──どのような客層が多いですか?SNSからの認知が大きくて、20代の利用が一番多いですね。ホームページも若い方向けのUIで作っていて、ネットからしか予約を受け付けてないのも影響してるかと思います。全客室に露天風呂を設置しているので、ドリンクを片手にみなさんのんびり過ごされていますね。──インターネットからの予約のみにしているのは良いですね。私が来た時には旧来型の旅館の働き方をしていて、とても非効率だったんです。予約の取り方もそうですが、”客室のポット係”や”客室の布団をあげる係”みたいな1つの仕事しかしないシフトだったり、予約が5部屋しかないのに全員出勤していたこともありました。まずは勤怠のシステムを入れて、どの仕事にどのくらいの時間がかかっているのか、1つずつ計測するところから始めました。取引先も70〜80社くらいあって、細かく見ていくと送客すらないところに手数料払っていた。要するに誰もマネージしていなかったんです。今までのやり方は全て捨て去り、不退転の覚悟でやってきました。──リニューアルオープンというより、環境整備や効率化などをしつつホテルの再生をしているような感じなんですね。そうですね。昔のデータと比較すると、最低でも原価率で3%、人件費で7%は効率化できています。文化を構築し、組織をフラットにして、ホテルを再生──再生にあたって、具体的にどんな取り組みをしてきましたか?小さな組織なので、企業文化の構築から始めています。そのために情報共有が必要ですが、全員がスマホを持っているわけじゃなかった。メールでコミュニケーションを取っていくところからのスタートでしたね。他にも効率化のために様々なシステムを導入したり、専業的なスキルで組まれていたシフトをマルチタスクに変更して、柔軟かつ効率的に運営がまわる状態にしました。その後は、縦割りでピラミッドの頂点に総支配人がいた組織構造を、逆ピラミッドにしてフラットなコミュニケーションが取れるようにもしました。インプットは与えつつも、スタッフ達が自分たちで問題解決をできるように、時間やリソースを与えるようにしています。──効率化を行っているとのことですが、数字面ではどういう数字を追っていて、どう改善していってるのでしょうか。収益と顧客満足度の2つを見ています。顧客満足度を上げて市場価値を上げつつ、リピーターを増やしたいと考えていて、どちらの数字も開業時からずっと上がっています。収益に関しては、先ほど言った原価や人件費の効率化。システムは勤怠や経理、フロントも変更していて、かつそれぞれを連携して翌朝にはレポートが出るように設計しています。シフトについても、前日と当日の予約数の予測から効率的にアサインできるように仕組み化しています。集客はインターネットのみしていて、自社と一休に力を入れています。顧客満足度について、顧客指向性という口コミの点数がすぐ分かるシステムを導入していて、開業からの2年間はネガティブな口コミをつぶしてきました。掃除ができてない所やサービスが至らなかったところを改善する毎日です。──より具体的にどんな数字を追っているか伺ってもいいですか。部屋タイプ別の稼働率や、1室当たりの清掃時間などですね。設定しているKPIに対して勝ったか負けたか、その理由も社員に発信しています。日々のFLコストも出していて前年度の差の要因や目標との差分も共有し、可視化しています。興味のある子はその数字を見て自ら学んでいる。接客面ではレビューの数値だけでなく、名指しのお褒めの言葉も共有しています。改善を行う上では、とにかく短いサイクルで、アップデートされた情報を基に次の打ち手を考えることを大切にしています。──組織構造を逆ピラミッドに変えたとおっしゃっていましたが、マネジメントの方針は、目指すべき数値と現状の数値を渡して、それに対してどうすべきかスタッフが考えていくような感じなんですかね。そうですね。目指す売上高やOTAのレビュー数値があって、考えながらネガティブな要素を潰していってもらっています。"ホテルのリアルスクール"──山下さんは、もともとホテルで働かれていたんですか?外資系のヒルトンやウェスティンホテルで、ホテルの立ち上げを中心にマネジメントをしていました。一度ホテルを離れてUSJで働いていましたが、45歳の時に再生をメインとしたリゾートに入社し、再びホテル業界に戻っています。そこでは大型旅館の再生や海外の4つ星のリゾートを担当しました。現在は株式会社ひとのもがたりというひとり会社を設立し、2021年からはイル・アズーリの総支配人として契約を頂いています。il azzurriでは、これまで支配人を育成してきた経験やマネジメント経験を活かして、ホテルのリアルスクールみたいなことができたらなと思っているんです。──ホテルのリアルスクールですか?私が若い頃にこの田舎で暮らすとしたら、長くても3年しか持たないと思う(笑)。なので「3年で全ての業務を学べる」みたいな、キャリアの育成ができたらなと。ホテル開業の流れや日々の運営で行なっていることは基本的に教えてあげられる。各種数字の試算から、自動化も含めた効率化・システム構築、シフト作成といった日々のオペレーションまで。もともと教えることが大好きなので、ロジカルシンキング、基本的なPCスキル、損益計算書の読み方など、社会人として必要なものも提供したい。従業員だけじゃなく、短期のインターンも受け入れていて、実際に立教大学の学生さんが数週間から長い子で2ヶ月以上来てくれました。──社会人スキルやホテルの知識だけでなく、システムの導入から自動化の方法まで学べるのは、キャリア視点で見たときにホテルの運営に加えて、開業まで見据えていてとても魅力的に思えます。働く上で、社会人最初の上司が一番大切とよく言いますよね。社長や経営層じゃなくて、やっぱり身近なマネージャーの存在が大きい。スキルだけじゃなくて、考え方も含めてそういったことを教えてあげられる存在になれたらなと思っています。──実際にスタッフはどんなことを学んでいますか?直近ではホームページ担当、広報担当、予約担当をアサインしました。一つの業務を長くやってもらうんじゃなくて、どんどんシャッフルしている。それぞれの仕組みを覚えてもらうのは、会社もメリットがあるし、個人としても色々なキャリアパスの可能性がでてくると思っています。──通常業務以外で目にみえる成果が出ると、モチベーションにもなりそうですね。最近、自社の会員プログラムを開始していて、スタッフに管理してもらっています。当初は担当スタッフが「予約データを取り込む時に、会員を識別する方法がない」と言って困っていましたが、自ら予約システムの会社に電話してくれたみたいで、さきほど「無事にデータ取り込めました!」って喜んで報告に来てくれたんです。自分で仕組みや新しいことを学んでいるのは驚いたし、素直に嬉しかった。──いいですね、聞いててこっちまで嬉しくなるようなお話です。「僕らの仕事は立ってるだけでいいんですよ。」──通常業務は、数字を渡して自分たちで考えてもらうマネジメントをしている。そのほかの業務は、リアルスクールとして知識やスキルを与えていくイメージですか?そうですね。通常業務について、基本的には環境を与えるイメージです。解を与えてしまうと僕の方しか見なくなる。──スタッフの方々は、改善案をどんどん出してくるんですか?出してくれる方とそうでない方といますね。失敗してもいいので、「これやりたい」「あれやりたい」って提案はどうぞって言ってます。失敗は誰しも通るけれど、それでいいと思うんですよね。コンセプトさえ合ってればいい。どうしても言いたくなってしまうことはあるけれど、我慢比べです。例えばうちのレストランは80席あるんですけど、みんながインカムを入れたいと言うので導入しました。個人的にはいらないと思って「本当にいるかな?」と言っても、みんな聞いてくれない(笑)──決定権が現場にあるのは、良いマネジメントなんだろうなと思います(笑)もともとスタッフは何を求めてこの会社に来ているんですか?運営責任者に近いところで学べることと、業務範囲が広くてなんでも挑戦できるところだと思います。基本的にホテル経験が長い人は採用しませんでした。今までいろんな会社でマルチタスクに挑戦したんですけど、ホテルマンの経験が長い人は耐えられない人が多かったんです。今働いてくれているスタッフは異業種の人達が多くて、飛行機の滑走路の整備をしていた方や、カフェの店長だった子などが活躍してます。──今後も、経験問わずいろんな方に応募してもらいたい?経験よりかは、先入観が無いことや素直さが大切。極論を言ってしまうと、僕らの仕事は立ってるだけでいいんですよ。優しい気持ちや温かい気持ちでここにいてくれれば、それはお客さんに伝わる。例えば歴の長いホテルマンの「僕はワインの知識をたくさん知っていて〜」「テイスティングした数は〜」とかはどうでもよくて、必要なのは空気感なんです。お客さんは遊びに来ているのに、硬い表情で立っているスタッフを見るのは辛い。「いいお客さんが来たらいいな」くらいの気持ちで立ってればいいよって伝えてます。職場の裏の雰囲気は表に出てくると思っているので、遊び心を大切にしながら仕事してもらえたら嬉しいですね。文章・編集:田中拓海写真:田中拓海hoteltree(ホテルツリー)は、働きたいホテルが見つかる求人サイトです。宿泊業界の離職率は約30%。入社する理由と、続けられる理由は異なると考えています。続けられる理由まで考え、ホテル業界の取り組みや支配人の想いを紹介していきます。ミスマッチを減らすことを目的に、誠実なホテルと宿泊業を志す人々、それぞれに真摯に向き合っていきます。