東京・日本橋にあるホステル『CITAN』。ラウンジでは毎週異なるDJが音楽を流し、コーヒースタンドでは自家焙煎の豆を使ったコーヒーを提供しています。多様なコンテンツを提供することで、様々な人がCITANという1つの空間を楽しんでいます。Coachの竹原昌吾(たけはら しょうご)さん(写真右)とレセプションの伊藤凱(いとう がい)さん(写真左)に、幅広いゲストに愛されるコンテンツの在り方や、具体的な採用事例について伺いました。宿泊施設×音楽──CITANはDJイベントを定期的にやっていて、他のBackpackers' Japanの店舗に比べると、音楽が特徴の1つになっているかなと思います。CITANにとって音楽はどういう立ち位置なんでしょうか。竹原:結果としての収益性は常に考えていますが、集客を目的のメインには置いていないです。もともとの考え方は、食事やお酒が目当てで来た人達の目の前でDJをやっていたらインパクトがあるだろうし、逆に音楽を目当てで来た人達が食事やお酒も楽しめるんだって気付いてくれたら面白いだろうなって。宿泊している人もラウンジに降りてきて、いい雰囲気で音楽が流れてた方が楽しいはず。コンテンツの一つではあるが、主力で推していきたいっていうほどではないですね。ただ大前提として宿泊と音楽って難しい。落ち着いて寝るために泊まりに来た人にとってはノイズになりうるし、「賑やか」ではなくて「騒がしい」に切り替わってしまうこともある。僕が音響や企画など音楽周りのことを担当しているのですが、バランスをとるのがすごく難しいですね。──集客のための音楽というより、居心地のための音楽みたいなイメージなんですね。そう考えると、ターゲットや音楽性など全てを意識しないといけないですよね?竹原:音楽好きな人だけじゃなくて幅広い客層の方が来てくれるので、その場にいる人が何の目的でCITANに来ているのかある程度見た上で、照明や音量を調整しています。例えばご飯をがっつり食べている人に向かって照明を落として音を上げても、困惑しちゃうよねとか。ただ、僕が毎日管理出来るわけではないので、スタッフによって音量や照明においての個性とキャラクターが出てくる。はたから見てても嬉しいのは、突然場に合わない曲がかかった時にスタッフの子が「この曲ってどうなんでしょう」みたいな感じで言いに来てくれるんですよ。働く子達にとっても、かかっている曲に場としての線引きがあるのが分かっているようで、安心できます。──日常に開かれているレベルになると、そこまで考えて維持しないといけないんですね。竹原:ある程度マニュアル化して標準化しないとスタッフが回していけないけど、音楽目当てのお客さんが多い傾向にあるので、音楽を特徴として出していかないとどんどん物足りない印象になってしまうんです。── けれど音楽をメインの集客コンテンツにして尖らせていくと、カルチャーな空気感で閉じた雰囲気になってしまうことにも繋がる。なのでいろんな人の居心地の良さのために、バランスをとりながらコンテンツの一部として発信していると。竹原:そうですね。音楽だけじゃなくてコーヒーやバーも専門性を高めていくと内向的になる。CITANでは、サービス業として間口を広く取っておきたいと考えています。専門性が良いサプライズを生む──ではCITANのキャラクターというか、強みをまとめるとどんな言葉になりますか?竹原: コンテンツの多様性や尖り具合を持ちながら、いろんなニーズに対応できることなのかな。なのでお客さんの多様性もあります。──尖りすぎずに、でも良い雰囲気を纏うってむずかしいですよね。竹原:技術的な面でいうと専門性は高めていかないといけないけれど、結果として作るものが完璧に専門的である必要はないってことかな。レベル100を目指して本当にレベル100のものを作っても、分かるお客さんが数人しかいなかったら方向性が変わってしまう。──スタッフ側の知識や技術がレベル100まで到達するつもりで研鑽をしていないと、幅広いお客さんの好みに合わせて提供が出来ないというのもありそうですね。竹原:そうですね。それに、どのセクションでも同じなんですけど、良い意味で求めていないものを得られた時の体験ってゲストにとってすごく大きいと思っているんです。例えば今日スタッフの子が、旅行で泊まりに来たカップルとたまたま仲良くなって「自然が多いところに旅行したいんだけど、良いとこない?」みたいな話からBackpackers' Japanのキャンプ場を案内していた。そのカップルがラウンジにやってきて、「山にも登りたいんだよね」と言っていて、僕も山が好きなので会話が弾んだ。彼らからしたら、たまたまバーに降りてきて、近くの席に座ったことで生まれたサプライズだと思う。こういったサプライズがどれだけ起きるか、多く起きた方が面白いと思っている。それを起こしてくれるスタッフが多い方がいいし、コンテンツも多い方がいい。専門性は、それを加速させるための手段って感じですね。さらにいうと音楽目的の人と周辺のビジネスマンとか、違う目的の人が交流して、いつもと違う空間になるのもかなり面白い。──いろんなニーズに合わせたコンテンツがあることで集客の軸が多いし、それだけではなくて、いろんなコンテンツを求めてきている人達の交わり自体がコンテンツになっている。竹原:いろんな人が来るので、ときには交わりがうまくいかないことももちろんあるけど、うまくいくための精度は高い方がいいし、そのために専門性を高めておいた方がいい。採用基準は「一緒にご飯を食べる想像がつくか?」──他の店舗で「なんでラウンジにたくさん人が集まるのか」「なんでこんなにリピーターが多いのか」と聞いていくと、「スタッフが生み出す空気感」っていう言葉に集約していきました。強みがスタッフとなった時に、採用はとても大切だと思います。採用ではどんなところを見ていますか?竹原:他のインタビュー記事に出てたかもしれないですけど、昔から採用基準の一つに「一緒にご飯を食べる想像がつくか?」っていうのがある。これは結構大きいと思います。──一緒にご飯食べたくなる人って、もっと分解するとどんな要素がありますか?竹原:感覚の部分が大きいですけど、具体的に言うなら、本人のパーソナルな部分や個性が履歴書や面接で出てるかはなんとなく見ています。例えば今働いてるスタッフの例でいうと、履歴書に自分のInstagramのアカウントを載せてきたんですよ。今までそんな履歴書見たことなくて、なぜか聞いたら「私自身をもっと知ってほしくて」って言うんです。もしみんなが同じことやってきたら興味湧かないだろうけど、そのアピールの仕方は面白かった。──いいですね、面白い。竹原:他の例でいうと、一通の履歴書が来て、僕的には条件を満たしていたから話を進めようと思って別のスタッフに話をしたらあまり反応が良くなかったんですよ。そのスタッフいわく「最優先で雇いたい方は、宿泊業で働きたい理由ではなくて、CITANで働きたい理由がある方」って言うんです。日々のメンテナンスも自分達でやっていて、朝早いシフトや夜遅いシフトもある。トラブルとかタスクとか、大変なこともいっぱいある中で、頑張れる理由は「ここで働きたい」「この店に愛が持てるか」なんだって。それを聞いた時に、本当に愛を感じた。なので、一緒にご飯を食べたくなる理由って、直感で見てはいるけど掘り下げるといろいろあって、その人の魅力とか、相性とか、愛情を持ってくれるかとか、そういうところを大事にしています。──確かに離職率が低いホテルに話を聞いていくと「こんなこともできます」みたいな履歴書は結構落として、「このホテルのこういうところが好きなんです!」っていう愛のある履歴書の人を取る傾向にあるとよく聞きます。竹原:あとは働きたい理由にストーリーがある方は興味がわきますね。最近入社したレセプションの方は、留学時に予約したホテルで部屋が用意されていなくて追い返されかけた経験があった。そういった経験をした時に、なんでこんな対応をしてきたんだろうって思ったし、そういう対応されて辛かった経験があるから、自分が働くなら違う対応をしてあげたいっていう背景を書いてくれていた。それならきっとこの人はゲストに嫌な対応をしないんだろうなと思えたし、働く理由が明確でした。──素敵なスタッフが多い理由がわかってきた気がします。責任ある仕事は、人を成長させる──採用後の教育や会社の空気に馴染んでいくのも大切だと思います。実際にどんな方が入社して、どう馴染んでいったのかお伺いしてもいいですか。竹原:今回伊藤が、その良い例になると思っていて。今3年目くらいなんですけど、どこかの会社でここまで長く働いたことある?伊藤:ないですね。高卒でいくつかアルバイトしたり、海外に行ったりしていました。竹原:僕はミスターCITANて呼んでるんですけど、入った時は20歳のただの若造で、先輩たちからたくさん叩き込まれてうちの会社っぽいキャラクターの子に出来上がっていったんです。伊藤:どうしようもないくらい芋でしたね(笑)──そんな風に見えないですけど(笑)その状態から何が変わったんですか?伊藤:入社した当時は、先輩方から全てのことに対して注意されていました。髪型、服装、言動、行動。一つずつ改善しながら、自分がなにもできていないことを自覚していった。竹原:はたから見てても、徐々に変わっていくのは感じていました。僕らの動きとしても、責任のある仕事をやらしてみたらいいんじゃないかって考えがあったんです。今はCITANの全セクションの人件費率や数字回りの分析、宿泊のファイナンスの分析とかもやってもらっている。23歳でそれをやらせる宿泊施設はなかなかないと思います。もともと違うスタッフが担当していたんですけど、引き継いだ時はまだ21歳くらい?伊藤:そうです。面白半分で「やってみない?」って言われて(笑)Co-Mじゃなかったらそんなチャンスも無かったと思いますね。竹原:階級制度のままだったら、引き継ぐ相手も明確に決まってただろうね。──ホステルの特性上、経験の多い人や、コミュニケーションの能力が高い人ばかりが採用されるのかと思っていました。竹原:コミュニケーション能力がないと採用しないかと言ったら、そんなこともない。男の子のスタッフで、人とうまく喋れない子がいたんですよ。面接してても、何度も聞き返さないといけないくらい声が小さかった。それでも「もっとコミュニケーションを取りたい。自分を変えたい」って言ってくれて。──素敵ですね。竹原:面接の中で、CITANの印象を聞いたら「かっこいいし雰囲気もいい。だからこそそれを維持するのはすごく大変なことだと思う。」みたいなことをぽろっと言ってきて、そのことを分かっていて応募してくれてるなら良いなって思った。逆に「おしゃれな場所で働きたい」って履歴書に書いてあったらほぼ採用しないです。いつ入社しても店舗作りを味わえる──馴染んでいった後、長く働ける理由って何かありますか?伊藤:僕はシンプルに自分に合ってるなと思いました。通常業務だけじゃないプラスアルファのことをやるのも好きだし、自発的にできることも多くてやりがいがある。あとはいろんなお客さんがいること。音楽という要素があることで、ホステルだけじゃない客層に出会える。立地的にビジネスマンも多くて、人との出会いには飽きないですね。──竹原さんは長く働いているかと思いますが、続けられる理由は何がありますか?竹原:個人的に大きいのは立ち上げからずっと関わっていること。うちの会社は昔から自店舗の工事を自分達で結構やるんですよ。ベットの組み立てから解体も全部。そういう自分たちでやっている経験とか、自分たちが作ったという価値観は絶対的に裏切らないし、愛が生まれる。責任範囲が広いので、逆にやらないといけないことが多いとも言えるけど、その責任感と愛着のバランスが取れているスタッフは長く働きますね。──裁量の大きさはスタッフの成長だけじゃなくて、店舗を愛する理由になりうるんですね。竹原:そうだと思います。日々の消耗するようなルーティンワークだけだと気づけないことも多いけど、ハード面で大きな作業をしたり、自分で仕事を見つけて解決した時には愛着や達成感に繋がる。──そういった文化祭前夜みたいな作業行程も、楽しさや思い出につながっていそうですね。竹原:大変ですけどね。「二度とやりたないわ」って言いながらやってる(笑)伊藤:立ち上げ期間だけじゃなくて、今から入っても全員がその空気感を体験できるのも良いですよね。──確かに途中から入ってそういう経験ができるのは、他の会社だとあんまりなさそうですね。伊藤:ありがたい環境ですよね。例えばメンテナンス業務一つでも、スタッフが自分達で気づいてアップデートをかけていくし、コストコントロールもする。アルバイトの人でもそこに意見が出せるのは、健全だし面白いと思いますね。文章・編集:田中拓海写真:田中拓海hoteltree(ホテルツリー)は、働きたいホテルが見つかる求人サイトです。宿泊業界の離職率は約30%。入社する理由と、続けられる理由は異なると考えています。続けられる理由まで考え、ホテル業界の取り組みや支配人の想いを紹介していきます。ミスマッチを減らすことを目的に、誠実なホテルと宿泊業を志す人々、それぞれに真摯に向き合っていきます。